随証治療の底力

先日、旧知の婦人が久しぶりに来院した。「ひどい風邪を引いて近所の病院にかかったけれど、だんだん悪くなって、咳が激しくなり、肺炎になりそうだとも言われたが、1ヶ月かかって少し楽になったので来ました」とのことだった。私は内心「嗚呼、だめだなー」と思ったが、黙って診察して、証に随って投薬した。多分、今頃は快くなっているはずだ。

已に10年近くも、九州から私の診療を研修に来ている壮年の医師が、過日こんなことを言っていた。「医師会の会合の折、近隣の医師から、O先生はいいなあ、新薬も使えるし漢方薬も分かるし、収入が多いでしょうと言われたので、こう言ってやりましたよ。何を言われますか、先生達の方がずっと良いでしょう。風邪の患者が来れば、抗生剤や解熱剤などを出されて、患者さんは1週間も10日も続けてくるでしょう。私などは、漢方薬だけで治療するから、風邪なんか2日か3日で治ってしまって、患者さんはそれっきり来ないから、収入は先生達よりずっと少ないですよ」と。

私は、「そうだそうだ、そうなんだ、漢方を(本式に)やれば、そうなるんだよ。でもそこに、喜びと誇りを感じるから、漢方をやっているんだよ。」と賛同した。世間の人は、大学病院へ行けば、病気は何でも治る。病気になれば、病院にかかればよいと思っている。しかし、大病院で治らない病人が沢山居る。風邪何ぞでも、病院にかかって反ってこじれて治りにくくなることもあるというこ
とを知らない。不幸なことだ。

風邪で熱発しているとき、漢方薬でも解熱させることはできる。けれども、漢方は単に熱を下げる為だけに治療するのではない。病症を基本的に改善させることを目標にしているのだ。

以前、漢方に理解をもっていると思われていた大学教授と対談をした時、その先生が、「対症療法ですね」と言われた。私は、「漢方は随証治療と言って、対症療法とは意味が違います」と説明をしたが、余りお分かりにならなかったらしい。

漢方には、確かに対症療法的な効果がある。熱発していれば、解熱させることが出来る。しかしその場合、単に熱を下げるだけではない。風邪そのものを回復させるような治療方針を立てるからである。いわば、基本的に病症を改善させることを目標にするのである。それを「証を決める」という。

簡約の基本的な効能は、靱帯が保有する自然治癒力を引き出し、増強して、病体を補正するものであり、その過程に於いて、症状を緩和し、解消することが出来るのである。このようなメカニズムで奏功する漢方薬は、現代医学の病名とは必ずしも関連せずに有効なことが多いのである

早い話が、漢方専門の医療施設をおとずれる患者は、例外を除いて皆難症である。その人達が、それも例外を除いて改善するので、その施設が永続しているのである。そうではあるがまた、担当する医師達の腕が大切である。

かつて、漢方を研究中の青年医師が、顔色が悪く、元気がないので、どうしたのかと聞いてみると、「風邪をひいて20日以上経ち、何種類か漢方薬を服んだが、ひどい咳が治らない」という。「夜、よく眠れないのでは」と再度尋ねると、「そうです」との答え。そこで私が、「それでは○○湯を服んでみなさい」と教示しておいた。翌週会った時、「あの薬方を服みましたら、数日で、咳も止まり、風邪気味もすっかり快くなりました」と元気そうに報告された。

1997-8月

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